市民活動家・研究者(前千葉県議会議員)

◆ 川本幸立のブログ

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井野博光、後藤政志両氏の1.27声明 ストレステストによる原子力発電所の「安全評価」を批判する (外国人記者クラブにおける声明書)
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    2012年1月27日
    井野博満(東京大学 名誉教授)
    後藤政志(工学博士 元原発設計技術者)

    2011年10月28日の大飯3号機を皮切りに、事業者から、「発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価(ストレステスト)」報告書が原子力安全・保安院に対し提出され、本日までに14原発に達している。
    そもそもストレステストは、欧州においては、福島原発事故をうけ、原子力発電設備の地震・洪水等に対する安全裕度の評価により、施設の弱点を発見し、その継続的な改善のために導入されたものである。日本では、それを、審査の判断基準もないまま、停止中原発の再稼働の条件としてしまったことに根本的な問題がある。今、全国で湧き起っている「ストレステストは果たして原発の安全性を正しく評価するものなのか?」という問いかけはしごく当然の疑問といえる。

    1.ストレステストの基本的問題点

    例えば、大飯3、4号の報告書によれば、基準地震動に対する耐震裕度1.80倍、設計津波高さに対する裕度4.0倍、全交流電源ならびに最終冷却源喪失時のクリフエッジ(炉心損傷)に至るまでの余裕16日間、とあるが、それをもって当該原発が「安全」であるとは誰が保証できるのであろうか?
    まず第一に、設計基準値そのものが過小評価との疑問が拭えない。一方、評価の対象となっている建物や機器、設備の耐力は倒壊や破断に至る最大値までを許容している。更に、評価を導くシナリオに人為ミス、火災、アクセスの困難、システムエラー、部品の故障、等々の想定外事象が同時に起こることは考慮されていない。「全てが筋書き通りうまくいったとして」の楽観的な机上シミュレーションなのである。

     そのほか、多くの技術的な疑問点やストレステストの位置づけについての疑問が意見聴取会において提起され、満足な回答が得られていないにも拘わらず、保安院は政治日程を優先させて、ストレステスト報告書への一方的な審査結果をまとめようとしている(大飯3、4号機のテスト結果を妥当とする審査書素案を1月18日に提示)。技術的見地からの多くの疑問を置き去りにしたまま政治日程だけが進んでいる。

    福島の事故により、我が国の過去の設計指針、認可基準、審査の仕組み等の有効性と信頼が大きく損なわれた。福島の事故原因も解明されないままの今日、それらの見直しには膨大な労力と時間を要するであろう。しかしながら、原発の将来は、その結論を待って決めねばならないものである。安易なストレステストで再稼働を認めてはならない。

    2.ストレステストの審査の仕組みへの疑問

    しかも、ストレステスト審査の仕組みにも何らの改善がみられない。その具体例が「独立行政法人・原子力安全基盤機構(JNES)」による技術審査問題と意見聴取会委員の利益相反問題、更に傍聴問題である。

    審査の技術評価作業を担っているJNESには多くの建設主契約会社のOBが勤務している。大飯・伊方原発等の評価作業においても主契約者であった三菱重工のOBが重要ポジションと実務に携わっている。これでは、審査の中立性と公正さが疑われても仕方がない。12月9日に総務省の「独立行政法人評価委員会」から発表された文書においても、JNESの中立性と公正性の欠如が厳しく指摘されている。最低限、「審査対象を出身元と関わりのない施設に限るべき」であり、その条件が満たされないままでのJNESによる審査結果から疑念が消えることはない。

     意見聴取会委員には、三菱重工をはじめとする原子力業界から多額の奨学寄附金、共同研究費などを受け取っている大学教授が複数選ばれている。いわゆる原子力ムラの存在が原子力産業の様々の負の側面を助長してきたという反省が活かされていない。このような利益相反の疑いのある専門家が加わった状態では公正な審議ができない。利益相反の疑いがある委員は自発的に辞任すべきである。

     1月18日の第7回意見聴取会は、それまで認めていた傍聴者を別室でのモニター視聴形式としたため、それに反発した市民による抗議が行われた。結果として、意見聴取会は傍聴者と、傍聴者排除に反対する委員を締め出したまま別室にて開催された。保安院は、再稼働に向けた政治日程を最優先し、反対派市民を隔離した状態で「一次評価に関する審査書・素案」の提示をなりふり構わず実施したと考えざるを得ない。民主主義の最低条件のひとつである市民の傍聴の権利の阻害は許されない。

    3.IAEA調査団の役割は何なのか?

    今週よりIAEAの専門家ミッションが来日し、大飯3、4号機現地調査を含めて、保安院とJNESが実施したストレステスト審査の妥当性を評価するとしている。言うまでもなく、IAEAは目的に「原子力の平和利用の促進」を謳う国際機関であり、原発の「開発および実用化を奨励し、援助する」のが役割である。予め出来上がった筋書きが政治日程に組み込まれているだけのことであり、彼らの活動は、原発の安全性強化には全く寄与しないだけではなく、不完全なストレステスト報告書に根拠のない裏書きをすることで、逆に安全への大きな脅威となるであろう。


    以上を要約すれば、現在行われているストレステスト評価は原発の安全性を担保するものでは全くなく、「安全性に関する総合的評価」と銘打つには程遠い内容である。保安院とJNESによる審査は、利益相反の疑いの下でのお手盛り審査であり、「審査の基準」すら示されておらず、多くの不備と欠陥を抱えたままの事業者作成の報告書を追認するだけの極めて不当なものであると言わざるをえない。IAEAによるお座なりの調査もそれを上塗りするだけである。

    福島事故の再発を心から恐れる原発立地地域住民と国民の不安を除去するために必要なことは、福島事故の検証に基づく、耐震設計審査基準をはじめとする、諸設計・審査基準の見直しと、その新基準に従った危険な原発の運転停止・廃炉である。多くの欠陥を有するストレステスト評価は、たとえ実施するとしても、あくまでも、当該原発の弱点を発見するための技術的な一補助手段に留めるべきものであり、停止中原発の再稼働と結びつける根拠はない。
     
    以上、私たちは、世界のどの地においても福島の惨事を繰り返させないことを心から願って、この場にお集まりいただいた海外メディアの皆さんによる本メッセージへのご理解と、海外への発信をお願いする次第です。

    Posted by : 川本幸立 | 東北・関東大震災と原発問題 | 20:33 | - | - | - | - |
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