市民活動家・研究者(前千葉県議会議員)

◆ 川本幸立のブログ

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二枚舌の安倍晋三・自民新総裁誕生でより深刻化する「『政冷経冷』の危機」
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      かつてキッシンジャーは「日本人は論理的ではなく、長期的視野もなく、彼らと関係を持つのは難しい。日本人は単調で、頭が鈍く、自分が関心を払うに値する連中ではない。ソニーのセールスマンのようなものだ」と嘆いていたと言います。(「日米同盟の正体」孫崎享、講談社現代新書)

     5年前に「下痢との闘い」に敗れ、政権を放り出した安倍晋三が自民党新総裁に返り咲きました。総裁選で安倍は、「日中間に領土問題は存在しない。我々は尖閣や領海をしっかり守っていく意志を示していく」「河野談話の誤解を解くべく新たな談話を出す必要がある。首相在任中に靖国に参拝できなかったことは痛恨の極み」「集団的自衛権行使を認める必要がある。米国の船が襲われ日本の船が助けなければその瞬間に日米同盟は終わりだ」などと主張しています。

     安倍は、かつて首相在任中の2006年10月、衆議院本会議で「先の大戦をめぐる政府の認識は、1995年8月15日、および2005年8月15日の首相談話などにより示されている通りであります。かつて植民地支配と侵略によって、とりわけアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えたというものであります」「いわゆる従軍慰安婦の問題についての政府の基本的立場は、河野官房長官談話を受け継いでおります」と発言しています。

     ところが、2007年1月、米下院で従軍慰安婦反対決議案採択の動きが起こったことに対し、同年3月1日、安倍が「強制性を裏付ける証拠はなかったのは事実」と語ったことで、翌2日の「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」が一斉に「安倍首相が従軍慰安婦を否定した」と報じたことから、世界中のメディアが注目し、米下院の大勢が採択にまわりました。上杉隆は「官邸崩壊〜安倍政権迷走の一年」(新潮社)で、米国政府は安倍発言の問題性を、それまでの「歴史認識」ではなく、「人権感覚」にあるのではと改め、安倍政権への姿勢を変更した、としています。

     今、日中国交正常化40周年記念式典の中止や日中経済協会の訪中団の派遣中止、中国有数の国際見本市「西部国際博覧会」(昨年の契約総額約15兆円)への出展を日系企業60社以上が断念、中国便キャンセル5万席などの「『政冷経冷』の危機」が進行しています。

     日中のより一層の緊密な経済関係を築くべき時に、小さな無人島の領土問題をめぐる争いは、偏狭なナショナリズムを煽るだけで日中、東アジア地域に何の利益ももたらさないのは明らかです。それ故、日中両国間で尖閣諸島の領有権を事実上「棚上げ」してきました。

     ちょうど右翼思想家の佐藤優氏が、「毎日新聞」9月26日朝刊の「異論反論」で、「領土問題は存在しない」とする政府主張と明らかに齟齬をきたす外交文書として、2000年6月に発効した「日中漁業協定」の第6条(b)と、当時の小渕恵三外相が中国大使にあてた書簡が、尖閣諸島を実効支配している日本政府が自国のEEZ(排他的経済水域、領海12カイリを除く沿岸から200カイリの水域)における施政権の一部を中国に対して放棄する意向を示していること、こうした外交的に大きな譲歩をしていることが、領土問題をめぐる係争の存在を認めていることが明らかであるとし、日本が「領土問題は存在しない」という実態から乖離した強弁をやめ、係争を認めた上で「問題が解決するまで、尖閣諸島への中国国民の上陸、尖閣諸島周辺領海への立ち入りを自粛する」という合意を中国からとりつけ、武力衝突回避のために全力を尽くすべきだ、と主張しています。

     しかし、安倍は「日中間に領土問題は存在しない」と主張し、米との集団的自衛権の行使で対応するつもりのようです。これでは中国との「『政冷経冷』の危機」がより深刻化することは間違いありません。
    では米政府は尖閣問題で日米安保に基づき集団的自衛権を行使するつもりがあるのでしょうか。元外務省国際情報局長で元防衛大学校教授の孫崎享氏は安保条約第5条、米国憲法に照らして「中国が尖閣諸島を攻撃し管轄した時には、安保条約の対象から離れる。日中の武力紛争で米国が巻き込まれる可能性が出れば米国は身を引く」とみています。(「日本の国境問題」ちくま新書)

     孫崎氏は安倍新総裁の誕生について次のように語っています。
    「前に首相を務めた時のまま、世界情勢の認識がかわっていない印象だ。当時と比べ米国は中国を重視するようになり、中国経済における日本のウエートも低下している。総裁選後の会見で『米国との関係を強化すれば、領土問題は切り抜けられる』という考えが感じられたが、情勢判断を間違っている。現状において改憲や集団的自衛権の行使など、武力的なものを強めることは非常に危険」(毎日新聞9月27日朝刊)

     これでは、自民党が総選挙で多数を占めた場合、日中関係のみならず世界から日本が孤立しかねません。
    Posted by : 川本幸立 | 日本とアジア諸国 | 23:09 | - | - | - | - |
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