市民活動家・研究者(前千葉県議会議員)

◆ 川本幸立のブログ

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iPS細胞〜危ういバイオテクノロジー、問われる「責任、倫理、道徳」
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      「成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化できることの発見」を理由として、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出した山中伸弥氏がノーベル医学生理学賞を受賞しました。これを報じた今朝の「毎日新聞」の見出しに、「再生医療に期待」「難病解明、新薬試験に力」とともに「安全性と倫理面課題」「がん化リスク未解決」がみられます。

    福島核発電事故で、「10年後は核発電ゼロ」を決めたドイツの「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」の根幹的立場は「持続可能性と責任こそが倫理的論議を規定する」というものでした。この「持続的可能性」のキーワードは、ゞ時性(現在)と通時性(過去から未来へ)の思考、⇒祝描蔀峺饗А↓H鏗下圈弱者・少数者の立場を尊重する(反功利主義)、というものでした。(池内了氏講演、9月1日ブログ参照)

    実は、iPSをはじめとするバイオテクノロジーの分野においても核発電とまったく同じ課題が核発電以上に厳しく問われています。「原子力村」「原子力複合体」とよく言われますが、「バイオ複合体」を監視する「市民の眼」は「原子力」に対するものと比較すると遥かに小さなものです。

    科学ジャーナリストの天笠啓祐さんは「暴走するバイオテクノロジー」(金曜日)で、iPS細胞の危うさについて次のように指摘しています。

    「iPS細胞は、研究・開発に力が入れられ、安全性がおざなりになってきた。もし、臓器製造目的に用いたとしても、遺伝子組み換えに用いるベクター(遺伝子の運び屋)に、主にマウス白血病ウイルスが用いられているため、一歩間違えると白血病になる可能性がある。しかも、この細胞は無限に増殖する能力を持っている。この増殖能力は発がん性と紙一重とみられているため、臓器移植の後にがん化する恐れも指摘されている。さらにiPS細胞自体、あらゆる臓器や組織に分化する前の未分化の細胞であることから、その未分化な状態が残ると、一歩間違えると人間としての体の機能を奪う可能性がある。いずれにしろアクロバットな技術であることは間違いない」(同書17頁)

    さて、今までブログで2回、私はiPS細胞について触れています。以下に再掲します。

    ●【2007・11・27ブログより】
    ヒトの皮膚からの「万能細胞」の危うさ〜「万能細胞」と生命の動的平衡

    ヒトの皮膚からの「万能細胞」(人工多能性幹細胞=iPS細胞)について、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)による研究に反対してきたローマ法王庁の生命科学アカデミー所長が「人(受精卵)を殺さず、たくさんの病気を治すことにつながる重要な発見だ」と称賛したと報じられている。(11月24日「毎日」朝刊) 「万能細胞」については11月21日のDNA問題研究会、24日のバイオハザード予防市民センターの幹事会で話題となったが、以下のことが指摘された。

    ・自己完結し「自己決定」する、倫理問題は受精卵の有無だけの問題か?
    ・試験管の中での実験が、体内でどうなるか不明だ。
    ・がん化を促すレトロウイルスや初期化に使う遺伝子にはがん遺伝子も含まれる。無限増殖性を持つがん細胞によるがん化の可能性がある。
    ・DNAだけでなくRNAの関与も考慮しなければならない。安全性を無視した粗雑な技術だ。
    ・皮膚細胞の免疫性や老化の影響はどうか?
    ・卵細胞→皮膚とは逆をたどることになる。時間と言う概念のない機械的な技術だ。
    ・遺伝子治療がツールの一つとして使われている。
    ・格差社会の中で富裕層のための技術となる。

    DNA問題研究会でAさんは、「万能細胞」技術について、ルドルフ・シェーンハイマーの「生命とは動的平衡にある流れ」にあるという動的平衡系がまったく考慮されていないことを指摘した。
    この動的平衡理論を紹介した福岡伸一氏(青山学院大学教授、分子生物学)は著書「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)を次の言葉で結んでいる。
    「生命という名の動的な平衡は、それ自体、いずれの瞬間でも危ういまでのバランスをとりつつ、同時に時間軸の上を一方向にたどりながら折りたたまれている。それが動的な平衡の謂いである。それは決して逆戻りのできない営みであり、同時に、どの瞬間でもすでに完成された仕組みなのである。
    これを乱すような操作的な介入を行えば、動的平衡は取り返しのつかないダメージを受ける。もし平衡状態が表向き、大きく変化しないように見えても、それはこの動的な仕組みが滑らかで、やわらかいがゆえに、操作を一時的に吸収したからにすぎない。そこでは何かが変形され、何かが損なわれている。生命と環境との相互作用が一回限りの折り紙であるという意味からは、介入が、この一回性の運動を異なる岐路へ導いたことに変わりはない。
    私たちは、自然の流れの前にひざまずく以外に、そして生命のありようをただ記述すること以外に、なすすべはないのである。」(284−285頁)

    ●【2008.4.18ブログより】

    夕方(15日)、都内で開催されたシンポジウム「iPS細胞研究の展望と課題」(主催:毎日新聞)を傍聴する。山中伸弥京大教授の「iPS細胞研究は日本の貴重な知的財産になる。4因子以外でやってくるところがあれば脅威だ」「安全性については慎重な検討が必要」「多くの人の役に立つという思いで研究をしている。金もうけのために転用することは絶対に許されない」「再生医療にはカネと時間がかかる。時間的な面で解決するために、あらかじめHLA(皮膚細胞にある血液型のようなタイプ)のいろいろなタイプのiPS細胞を作っておく細胞バンクのようなものが必要」などの話が印象に残った。
    特許、安全性、生命倫理などとともに貧者も含めた万人の再生医療の可能性など検討課題は数多くある。

    Posted by : 川本幸立 | - | 22:56 | - | - | - | - |
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